新宿・新大久保おかあさん

88年秋。大学時代住んでいた汚い下宿にいつも通り徹マン明けでフラフラになって帰ってみると1通の白い封筒が届いていた。当時入っていた大好きなバンドのファンクラブからだ。開けてみると「解散します」の意が書かれたファン宛の白いメッセージカードが入っていた。。

初めてそのバンドの曲を聞いたのは13歳の時。中学校の同級生だったドラム好きなM下君が「コレ、ええから聴いてみ」と手書きのレーベルがついたテープを貸してくれた。聴いてみるとロック調の曲から暗～いバラードまでいろんな曲調の曲が入っていたのだが3人のボーカルがいると思われるそのバンドの中でほとんどの曲のボーカルをとっている柔らかで力強いハイトーンのボーカルの声に完全に魅了された。M下君にはソニーのCHFを渡し持っているそのバンドのレコードを全部テープに録ってもらい聴きまくった。技術などサボれる授業の時には同級生と視聴覚室にこもってテープを聴いたりもした。

M下君にテープを借りてすっかりそのバンドにハマった翌年、活動停止してしまったそのバンドのTV特番が私の誕生日に放映されると知り家族をTVの前から排除してラジカセを直にTVの前において番組を録音。録ったテープは何度も何度も聴きなおしそのボーカルが涙を流すシーンを夜勉強机に向かいながら何度も脳内で再生していた。

84年春。当時九州朝日放送で放送されていたそのバンドの名前が冠になっている番組で再活動を知り狂喜。シングルとアルバムは発売日の学校帰りに自転車を飛ばして買いに行った。その年の復活ツアー岡山公演は倉敷市民会館。大嫌いなオヤジにその時だけは三文役者ばりに頭を下げて早朝に車を出してもらい倉敷のプレイガイドまでチケットを買いに行った。
大学に入ってから行われた2回のツアーは広島で観た。場内録音するためだけにちょっと値の張るレコーダーを買った。最後にそのバンドのライヴを観たのは20歳の秋、広島郵便貯金ホールだった。

あの通知が来てすでに27年。バンド解散後もそのボーカリストはソロで歌い続けている。今ではもうバンドにいたことすら忘れてしまいそうなほどソロでの活躍が長くなり露出も増えファンも増えている。

毎年6月30日になると夜に独りで観るDVDがある。
そのバンドの5人時代最後の武道館公演。中学生の頃にはひたすら脳内再生して感動を蘇らせていた音と映像が今ではクリアに思う存分堪能できる。当時のような純粋で一途な思いをベースにした感動はすでに得られなくなったがそのボーカルが涙を流すあのシーンになると、横には13歳の時の自分が一緒に座っているような気がするのだ。